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ベンチャー伸ばすメンター 日米経営者OB、意識に差

2008.06.06
2008/06/06 日経産業新聞

 東洋高圧(広島市、野口賢二郎社長)は超臨界と呼ぶ高圧・高温装置で国内シェア四五%を握るトップメーカー。従来は大学や企業の研究所が主な顧客だったが、最近は食品メーカーなどに供給先を広げている。野口琢史経営企画室長は「新市場を開拓できたのは一人の経営指南役との出会いが大きい」と話す。

 2002年から同社の経営問題の解決をアドバイスしているのは森紀男氏。独立行政法人、中小企業基盤整備機構の中国支部で統括プロジェクトマネジャーを務める。マツダOBで長年、生産技術に携わってきた。
 「せっかくの技術が宝の持ち腐れになっている」。森氏の当初の見立ては厳しかったが、野口社長との面接で「新たな用途を開拓すればもっと伸びる」と確信したという。マーケティングなどの弱点を強化してほしいといった指導の目的が明確だったからだ。
 同社が得意とする超臨界技術は密閉した容器を高温高圧にして、物質を固体、液体、気体とも異なる第四の状態にする。水の場合、温度がセ氏374度、圧力が22メガ(メガは100万)パスカルで超臨界状態になり、他の物資に入り込んで分子構造をバラバラにする。
 超臨界装置は有害物質の分解やナノテクノロジー(超微細技術)への応用など研究所向けに安定した需要があり、同社は一般市場の開拓にあまり力を入れていなかった。だが、実験装置は特注品で、手間がかかる割に利益率は低い。
 森氏が提案したのは成分分析などの受託ビジネス。例えば超臨界装置を使えばコーヒー豆からカフェインを簡単に除去できる。食品業界の関心は以前からあったが、数千万円の価格が導入の障害になっていた。
 受託の経験は06年に発売した食品エキス抽出装置「まるごとエキス」に生かされた。1万メートルの深海に相当する百メガパスカルの圧力で食品を分解、24時間でエキスを取り出す。装置を小型化、高圧作業の免許も不要にし価格を380万円からと中小メーカーでも購入できる水準に引き下げた。
 アミノ酸など食品のうま味成分を無駄なく抽出可能な効果が評価され、調味料、スープなどの中小食品メーカーが採用。医薬、化粧品業界にも販路を広げ、販売台数は累計150台に達する。
 売上高は08年度に目標だった10億円を突破する見込み。顧客サービスや財務面の強化が急務だが、森氏は人脈を活用、大企業OBを同社に派遣するなど手を打った。
 経営基盤の弱い中小企業でも、良き相談相手と出会えれば成功の確率は高くなる。経営者OBには、中小企業の活性化にもっと一肌脱いでもらいたいが、中小機構によると森氏のような統括プロジェクトマネジャーは全国に11人しかいない。
 米国では大企業の経営者の多くが引退後、無給で起業家のメンター(指南役)を引き受ける。社会貢献に対する日米の意識の隔たりが、技術力のあるベンチャーが日本でなかなか輩出しない要因の一つなのかもしれない。

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