新聞・雑誌等への掲載

東洋高圧本社工場-焼酎廃液を水・CO2に(ものづくり拠点を行く)

2007.12.09
2007/12/07 日本経済新聞 地方経済面(中国B)

【高温高圧の「超臨界」利用】
 今年四月から海洋投棄が原則禁止となった焼酎廃液。イモのかすなどの有機残さを体積比で12%も含み、焼却するにも燃料代が高騰。行き場を無くした厄介者を抱えた業界が、高圧プラント製造の東洋高圧が開発した処理装置に熱い視線を注いでいる。高温高圧状態で残さを水と二酸化炭素(CO2)に分解してしまう。その名も「まるごとウォーター」だ。

 受注開始を発表してから一カ月余り。来社やメールによる問い合わせは300件近くに達した。食品や製薬など汚泥処理に悩む業界から幅広く問い合わせがある。
 東洋高圧の本社は広島市中区の住宅街にある。工場はマンションのような五階建て本社ビルの一階、約280平方メートルのガレージのようなスペース。ベテランと若手の社員が入り交じって忙しく立ち働き、装置を組み上げていく。
 同社の製品の基礎となっているのは、高温高圧下で液体と気体の境目が無くなる「超臨界状態」を利用する技術。超臨界に達した水やCO2などは、他の物質に入り込み分子構造をばらばらにする。まるごとウォーターは、有機残さが炭素や水素に分解された段階で酸素と反応させることで、残さを水とCO2にしてしまう仕組みだ。
 超臨界を使えば焼却処理の難しいダイオキシンの分解や、食用廃油からバイオディーゼル燃料を効率よく作ることもできる。大学や企業の研究所向けに実験装置を生産していた野口社長が、研究者に装置化を持ちかけられた超臨界に興味を持ち、技術を蓄積した。
 超臨界が始まる条件は水の場合で温度がセ氏374度、圧力が22メガパスカル(メガは百万)。高温高圧に耐える装置には安全性が求められる。「これまでに作りだした装置はおよそ2500種類」(野口社長)。食品、製薬など幅広い業界と付き合い、経験と知識を積み上げてきたことがモノを言う。
 独自開発の強度計算ソフトで、装置に必要な金属の肉厚を計算。熟練工が旋盤などの工作機械を使い、百分の一ミリの精度で金属材料から削り出す。
 材料は通常のステンレスだけでなく、高硬度・高耐食性の特殊な合金を使うこともある。高圧がかかるふたや継ぎ手の部分のノウハウは特に重要。ガスケットは金属製の内製品を使う。
 ただ、熟練の技による「一品一様」のもの作りによる経営は過渡期を迎えている。「事業を安定的に拡大し、次世代に引き継ぐため、経営の土台となる量産型の製品育成が課題」(野口社長)と考えているからだ。
 昨年九月には量産型の第一弾として食品エキスの抽出装置「まるごとエキス」を発売。最大で1万メートルの深海に相当する100メガパスカルの圧力をかけることで、短時間でエキスを取る。販売台数は100台を超え、量産体制を考える時期に来ている。「まるごとウォーター」は、1日の処理量10トン以上の大型装置の生産で、瓶詰機械のシブヤマシナリー(金沢市、渡辺英勝社長)と提携した。本社工場の研究開発機能を一段と高めながら、量産品の製造にどう対応していくか。これからが正念場だ。

【量産体制整備へ 東広島に新工場】
 野口賢二郎社長の話 超臨界の技術を生かした製品を世界で使ってもらいたいというのが、経営者としての目標。量産型の製品を育てたい。売上高20億円、純利益3億円の達成をメドに、株式上場も考えたい。
 まるごとエキスは化粧品業界など、意外な分野からも受注があり、量産体制を整備する時期に来ている。すでに広島県東広島市に敷地面積約9900平方メートル、延べ床面積約1500平方メートルの工場を買収した。大型投資で人員も必要になるので、ラインの整備など慎重に検討したい。

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