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超臨界装置を「一品一様」生産(キラ星企業)

2007.04.04
2007/04/04 日経産業新聞
食品エキスも短時間抽出  広島市のJR横川駅に近い住宅地にある東洋高圧(広島市)の本社ビル。一見マンションのようだが、一階の工場では超臨界と呼ばれる高圧・高温技術を生かした装置が、顧客の注文に沿った「一品一様」の仕様でこつこつと作られている。超臨界を使えばダイオキシンなどの有害物質の分解や食品のエキスを成分を損なわずに抽出できる。東洋高圧はこの装置で国内シェアの45%を占めるトップメーカーだ。

 密閉した容器の中で水をどんどん加熱すると、沸騰して気体となった水蒸気と液体の境がない状態が訪れる。これが超臨界だ。超臨界が始まる条件は温度がセ氏374四度、圧力が22メガ(メガは百万)パスカル。二酸化炭素(CO2)の場合は31度、70キロパスカルで超臨界状態になる。
 超臨界に達した水やCO2は、他の物質に入り込み分子構造をばらばらにする。例えば有害物質で、高温でないと燃えないダイオキシンも、超臨界状態の水の中に入れると炭素や水素などに分解され、無害化できる。CO2を媒体に使えば、食物に含まれるビタミンなどの有効成分を、熱で傷めることなく抽出することも可能だ。
 野口賢二郎社長は広島の大学を卒業後、大阪の圧力機器メーカーに勤めた。ある時、潜水艦の減圧弁の製造依頼が舞い込んだが、会社は人命にかかわる製品に手を出さない。原理は難しくはない。「高度な性能を保証する設計ができれば、一品一様の機器を作ることがビジネスになる」と、独立に踏み切った。
 以来、大学や企業の研究所用の特注実験装置などを生産してきた。中でも化学の研究者に装置化を持ちかけられた超臨界に興味を持ち、技術を蓄積した。2006年3月には基礎研究を深めるために子会社の超臨界技術研究所を設立した。
 一方で、最近は「次世代の経営の土台を作るため」量産型の製品の育成にも力を入れている。野口社長の技術力だけに頼っていては、経営の安定が図れないからだ。
 第一弾として2006年9月に発売したのが、食品エキスの抽出装置「まるごとエキス」。最大で一万メートルの深海に相当する100メガパスカルの圧力をかけることで、酵素による食品の分解を促進し短時間でエキスを取る。
 例えば魚から魚醤(ぎょしょう)を作る場合。通常製法で一年以上かかるものが24時間でできるという。高い圧力下では腐敗菌が活動しないため、塩を大量に加える必要がない。酵素は圧力に強く、塩分がない方が活発に働くため短時間でエキス化が進む。
 ワインの熟成促進や化粧品の品質向上など装置の思わぬ利用法も見つかり、売れ行きは順調。量産商品の第二弾は、焼酎かすなどの食品業界の廃棄物を超臨界に近い状態を利用して水とCO2に分解する装置を研究中で、商品化も近いという。
 「自社の商品を世界で使ってもらいたい」という理想を実現するステップとしてとらえるのが株式上場。売上高20億円、純利益3億円を、上場申請のめどと考えている。

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