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驚異の高圧酵素分解装置「まるごとエキス」-1年以上かかる魚醤の生成を24時間で可能に

2006.10.05
2006/10/05 特許流通News Letter No.12
(株)東洋高圧が広島県(広島県立食品工業技術センター)から「調味料の製造方法」(特許第3475328号)のライセンスを受けて開発した高圧酵素分解装置「まるごとエキス」が食品業界などに好評だ。通常は製造に1年以上はかかる魚醤と同じ魚エキスが、なんと24時間でできてしまうのである。


◆特許の発見から半年で製品化◆
 昨年7月、財団法人ひろしま産業振興機構発行の「活かそう開放特許ひろしま2005」の頁をめくっていた(株)東洋高圧の野口賢二郎社長は、「調味料の製造方法」の特許に描かれた図面を見た瞬間、「これは当社にぴったりな特許だ」と直感、すぐに同機構の壹岐正弘特許流通アドバイザーへ電話を入れた。なぜなら、図面に示された耐圧容器や高圧ポンプなど主な製造技術を同社はすでに保有していたからだ。
 東洋高圧は中堅の理化学機械器具メーカーで、三菱重工業(株)や三菱化学(株)など大手企業向けのプラント実験装置の開発・製造がメイン。近年は超臨界水反応装置の開発など高圧高温状態における制御技術の高さで全国的に知られているが、数年前から実験装置だけでなく、独自の新製品開発を強化するため必要な技術の調査を続けていた。野口社長は「この特許はすぐにでも製品化できる。用途も調味料だけでなく、食品や医薬品など幅広く使える基本技術だ。当社にないのは調味料の製造試験データだけだ」と思った。
 翌日、壹岐アドバイザーは県庁に出向いて説明。2日後には東洋高圧、広島県、同機構の3者で特許権実施許諾契約のための会合が開かれ基本的合意が得られた。東洋高圧ではすぐに設計に着手し、高圧に耐えるシール技術などの自社ノウハウに加えて秋には試作機を完成させた。12月下旬に正式な実施許諾契約を終えるやいなや新年から新製品として発売を開始。わずか半年での作業だった。実はこの間、9月にはこの装置の製造方法について独自に特許出願。現在は同装置の新たな展開に向けて広島県立食品工業技術センターなどと共同研究を続けている。

◆酵素分解のための超高圧釜◆
 発売されるやいなや醤油醸造会社や食品会社、農漁協などから注文が殺到し、これまで10セット以上を販売した。
 「まるごとエキス」を一口で説明するならば、”動植物のたんぱく質などを酵素分解する超高圧釜”だ。例えば、鰯を特別な袋に包んだ状態で水の入った耐圧容器内に設置する。手動式の加圧ポンプで60メガパスカル(MPa)まで加圧した状態のまま50℃のヒーターで温め続けると、わずか24時間で鰯のエキスができ上がる。分解後に生成されるのはゲル状や液状のもので、熟成に1、2年かかると言われる輸入魚醤ナンプラーを超える旨み成分が凝縮されているにもかかわらず、塩分は35分の1しか含んでいない。
 この原理は、有害微生物の繁殖は25MPaから400MPaの圧力下で抑制できるということと、30℃から70℃の温度域で酵素作用が最も活性化するという作用を組み合わせたものだ。従来の発酵分解法もしくは酵素分解法で天然素材の調味料成分を生成する場合の課題だった有害微生物の繁殖を抑制するためにとられていた食塩の投与と、1年以上にも及ぶ熟成期間を不要にした。元となる食品素材は魚、肉、穀物、果物など。素材そのものがたんぱく質分解のための酵素を持っていなくても、酵素を加えれば利用可能で、生成されるエキスは、天然調味料としてだけでなくスープや幼児食の材料、衣料品など多彩な用途がある。
 野口社長の思惑通り、まさに同社にうってつけの製品となり、新たな事業領域を開拓することとなった。このほど発売された新型は、セミオートタイプ(定価850万円)で、同社ではさらなる期待を寄せている。

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