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挑む 超臨界装置-食や環境 研究分析へ量産 高圧・高温 成分の抽出分解

2004.08.23
2004/08/23 中国新聞朝刊
物質を気体でも液体でもない「超臨界」と呼ばれる状態にする技術を追求してきた小さなメーカーがある。「超臨界」を作り出す実験装置でトップの東洋高圧だ。その創業者である野口賢二郎社長(58)は、環境や健康への関心の高まりから、実験室以外のニーズを確信。量産型の製品開発に乗り出している。


 圧力と温度をかけて物質を気体でも液体でもない状態にすると、特定の成分だけを除去することが可能になる。「この臨界技術が必要とされる量産製品の分野があるはずだ」。5、6年前から実験用以外のニーズを考え始めた野口社長は、環境や食の安全に関心が高まっている点に着目。昨年から新たな装置の研究に取り組み始めた。
 量産化が決まった第1号は、残留農薬の抽出装置だ。超臨界状態になる温度、圧力は成分によって異なる。野菜そのものと国内で使用が許可されている200種類の農薬の成分が、超臨界にして抽出できる微妙な温度と圧力をすべて割り出した。入力したデータ以外の温度、圧力で抽出される成分があれば、国内で認められていない農薬が使われている可能性がある、と判断できる仕組みである。
 これまで欧米の農薬使用基準に合わせた装置はあったものの、日本の農林水産省の規格に合わせたのは初めて。計測器メーカーや商社と共同で開発中で、今月中にも完成する見通しだ。食品メーカーや商社などに年10台程度の販売を見込む。
「すき間」に着目
 野口社長は「農薬や有害物質、リサイクルへの関心が高まっており、超臨界が役立つ新たなニーズがあると確信した」と力を込める。
 大阪の圧力機器メーカーに勤めていた野口社長が、地元の広島に戻って起業したのは28歳の時だ。量産品でなく相手が欲しがる特注品を、と実験用の超臨界装置メーカーが国内に数社しかない「すき間産業」に目を付けた。
 メーカー時代に培った技術力をもとに、数百度の高温、数百キロの高圧に耐える装置を4、5ヶ月の短期間で造るのが売り。1台の装置の設計から納品まで一人の担当者が受け持ち、研究者の要望や仕様変更などに細かく対応する。
 口コミで評判が伝わり、納入先は広がった。東京大、京都大、東ソー(周南市)、中国電力など国内外のメーカーの研究所や大学、公設研究機関にこれまでに計2500台を納入した。
 しかし、個別に受注して生産する実験装置は、同じ商品を2度と造ることはない。特許も先方に渡す。カタログに掲載して売っていく自社の量産品がほしい、との強い思いがビジネス拡大の原動力となった。
【健康食品に活用】
 有効成分を抽出する研究受託の新ビジネスにも本格的に乗り出す。機能性食品や栄養補助食品など、成分分析や特定の成分抽出などのニーズが広がっている。「研究者や機械を持たないメーカーは何千、何万とある。地域おこしのために農産物に機能性を見いだそうとする自治体も多いはず」と野口社長はにらむ。
 イチョウ葉、ノニ、ニンニク。雑誌やテレビなどで体に良い、と話題になっている植物を溶媒である二酸化炭素と一緒に密閉容器に入れ、熱や圧力を加える。成分ごとに温度や圧力、時間を変えて超臨界状態にすると、二酸化炭素の運動量が通常の数千倍にアップ。有効成分を高純度で抽出し、機能性食品を生み出せるというわけだ。
 材料と溶媒を変えれば用途も広がる。例えば、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害物質。水などを溶媒に超臨界状態にして分解し、無害化する装置の開発も進めている。
 本社近くに1億円をかけて現在、4階建て延べ約500平方メートルの新たな研究所を建設している。年内には完成する予定で、早くも口コミで数件の依頼が寄せられている。

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