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東洋高圧、超臨界に挑む-新たな飛躍、カギは指南役

2004.02.23
2004/02/23 日経産業新聞


【技術力を評価・VB共同展開】
 有害物質の分解やナノテクノロジー(超微細技術)への応用など超臨界技術が産業界の注目を集める。超臨界実験装置でトップの東洋高圧(広島市、野口賢二郎社長)は大企業や大学の研究所向け実験装置を手掛ける町工場だが、ベンチャー企業を設立し、超臨界技術を使ったサプリメント(栄養補助食品)など商品開発に乗り出す。顧客の注文に応じた装置を地道に作る技術にほれ込んだ起業支援会社との出会いが、新分野挑戦のきっかけだ。
 昨年10月28日、野口氏らが資本金1千万円を出し東京・渋谷に設立した「ライフサイエンス」は超臨界技術を応用した商品開発を事業目標に掲げた。野口氏は会長に、事業提案者の起業創研(東京・渋谷)の渡部宏邦代表が社長に就任した。

【とんとん拍子】
 2人が初めて会ったのは昨年6月24日。起業創研は「ひろしま産業振興機構」の要請で広島県内の中小企業に海外の技術シーズを提供する業務を任され、東洋高圧は当日に訪問予定の3社のうちの1社だった。
 「他社ができない難しい仕事を選んで引き受けている」。こう語る野口氏に渡部氏は技術に対する確たる自信を感じ、一緒に仕事したいと思った。
 超臨界技術の成長性に渡部氏がピンときたのは、松下電器産業子会社の松下技研(常務などを経て2001年退社)に勤務していた時に超高真空技術に携わり、超臨界の可能性にも関心を持っていたため。2人は青春時代を海外で過ごし、脱サラで起業した境遇など共通点もあり意気投合。話はとんとん拍子に進み初対面から4ヶ月後に会社設立の早業だった。
 二酸化炭素(CO2)を高温、高圧にして超臨界状態にすると、ガスとも液体とも区別のつかない状態となり他の物質にすぐ浸透して強い分解力を持つ。複数の物質が混ざる溶液から有効成分だけ抽出でき、コーヒー豆のカフェイン除去などに使われる。
 ライフサイエンスは超臨界CO2の抽出技術を使い栄養素100%で混じりのないサプリメントを年内に製造、販売する。渡部氏は「本物志向の健康商品や応用分野を開拓、3年後年商10億円を見込み株式公開を目指す」と話す。
 超臨界状態で起きる現象は解明されない点も多く、謎の物質だ。高温高圧に耐える頑丈な装置が必要で、大手でも実用化に壁が立ちはだかる。

【国内シェア5割】
 社員わずか26人の町工場の東洋高圧がこの先端技術を使いこなせるのは、企業や大学の研究所から受託した特注品の超臨界実験装置を一品ずつ手作りしてきた蓄積があるからだ。細かい設計変更にも職人技の専従担当者が対応する技術力が口コミで伝わり、研究者の間での知名度は抜群で、国内シェアは約50%とトップ。
 同社の設立は1974年。大手プラント会社を脱サラした野口氏が一人で機械部品の受託設計から始めた。サラリーマン時代に潜水艦の制御弁の注文を取ったが、特注品だったためカタログに載っている1個3千円の既製品の弁と同じ機構のものを特殊品に設計、製造するだけで70万円で売れた。特注品の仕事を請け負えばビジネスチャンスがあると思ったことが起業の理由だった。
 最初はなかなか成果をあげられなかったが、三菱重工業など広島にある大企業の研究所巡りを続けているうちに、技術者がどんな部品を必要としているか分かってきた。

【幅広い顧客】
 顧客リストには有力企業、大学や国立研究機関の名前がずらりと並ぶ。圧力弁、バルブ、ヒーターといった部品から化学実験装置など大型プラントまで任される。超臨界実験装置は20年前から1年に1台の割合で作ってきたが、環境対策などで注目を集めた昨年は14台出荷、売上高の3分の1を占める。
 装置作りのプロとして一品生産に徹してきたが、野口氏は「本音は1社で何台もの装置を買ってもらいたい」と話す。
 不況の影響もあり5年前から大型案件が減り、利益から開発費をねん出してきたが、それも苦しく国や県の補助金を得てきた。超臨界技術の応用に挑戦したいと思っていた時に、ベンチャー創業で豊富な実績を持ち松下時代に大学教授など百人の“目利き”と人脈を培った渡部氏と出会った。
 顧客重視の東洋高圧の経営方針は変えないで、新市場を開拓するために2人で選択した方法が個人出資のベンチャー設立だった。自社ブランドのサプリメント販売のほか、共同開発のパートナー作りに力を入れる。
 超臨界抽出技術でうまみ成分を回収できるので食品会社が関心を示し、高い分解力による微粒子製造などナノ材料なども候補にあがる。採算性など克服すべき課題も多いが、パートナーが超臨界装置を導入すれば、東洋高圧の生産台数増加につながるとの読みだ。
 野口氏は「東洋高圧は現在、全部特注品を作っているが、今後は量産品7割、特注品3割になる」とみている。ライフサイエンスは既に松下電器産業から超臨界装置を受注するなど出足は順調で、近く増資を検討中だ。
 技術はあるがマーケティング力がなく、せっかくの技術を宝の持ち腐れにしている中小企業が日本には多い。東洋高圧のケースは良き指南役との出会いが新たな飛躍のチャンスを生むことを物語っている。

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